2008年10月30日 伊勢神宮宮域林を見学した。

●伊勢神宮(正式名称「神宮」)が、広大な森林を所有するのをご存じだろうか。宮域林と呼ばれるその森林は、5,446㌶ あり、内宮を囲むようにその背後に広がっている。伊勢市の森林のおよそ半分を占めている。

●伊勢神宮が森林を所有する目的は、式年遷宮の際、社殿を造り替えるのに必要な木材を供給するためである。造営には、ヒノキを中心として胸高直径140㌢の大径木が数本、同60㌢の木が6000本以上、同40〜50センチの木が2200本以上必要となる。樹齢にすれば100年を軽く超える。最低でも60年生以上の木でなければ必要とする材は採れないという。

●宮域林 は、第一宮域林と第二宮域林に区分され、内宮を囲んでいる第一宮域林(1,094㌶)と、第二宮域林(4,352㌶)のうち河畔等の特別施業地(1,259㌶)は禁伐となっている。用材生産は残りの普通施業地(2,901㌶)で行われている。

● 造営用材を伐り出す山を「御杣山みそまやま」という。第41代持統天皇4年(690年)の第1回式年遷宮から鎌倉中期までは宮域林が御杣山であった。しかし、次第に宮域林で材が窮乏するようになり、御杣山は近隣の山に移っていった。 江戸中期以降は、木曽山(長野・岐阜県)が御杣山と定められている。前回の第61回式年遷宮では、使用した木材の100%が木曽山からの供給であった。

●木曽山での天然ヒノキの資源量も減少してきたため、宮域林では大正末期から本格的にヒノキの造林を始め、現在蓄積量70万m3ほどまで生長した。平成25年に行われる第62回式年遷宮では、700年ぶりに造営用材の2割を宮域林から供給できることとなった。

●遷宮に当たっては御杣始祭を始めとして、多くの行事が行われる。御杣始祭は、神体を納める器となる木を伐り出す祭儀である。その伐倒作業では、木が倒れるとき、倒れるとは言わない。「寝るぞー」とかけ声をかけるそうだ。

●宮域林の目的は、造営用材の生産であることから、造営用材となる木をいかに早く太らせるかが、課題となる。そこで、宮域林での施業は、大樹候補木を二重ペンキ巻き表示を、その予備軍には一重ペンキ巻き表示をして、これら候補木の周囲を強度に間伐する受光伐が中心となる。昭和2年に植栽したヒノキ造林地4.4㌶では、今年6回目の間伐を行い、立木密度は㌶当たり260本となり、うち44本の立木が二重ペンキ巻き表示、100本が一重ペンキ巻き表示されている。

●間伐を強度に行うので、間には広葉樹が侵入してくる。宮域林は針広混交林を形成しつつある。中層には、アオキ、ヤブツバキ、ヤブニッケイ、カゴノキ、シロダモ、ユズニハ、シロダモ等、下層にはクサギ等が繁茂している。

●ここでもシカ害に悩まされている。1k㎡に15〜18頭棲息していると言われている。

●神宮には営林部という宮域林を担当する部署があり、施業に当たっている。営林部は直営14人を含めて20人ほどの作業班を持ち、造林から製材まで行っている。

●宇治橋の大鳥居は、遷宮により旧くなった内宮、外宮の古殿の棟持柱を再利用して、建て替えられる。古殿のその他材も、全国の神社にわけられ、再利用される。

平成25年に遷宮を迎える内宮。茅葺きの屋根は苔に覆われていた(写真上)。神域内には巨木が多い(写真右)。